京都女子大学「女性のためのリカレント教育課程 ~多様なライフステージに寄り添う「働くための学びの場」~」のご紹介
こんにちは。教まちや事務局です。今回は、京都女子大学の「女性のためのリカレント教育課程」についてご紹介いただきました。
京都女子大学では、1920年の京都女子高等専門学校の開学以前より、社会の変化に対応した日本社会を支える女性人材養成を目指しています。長い歴史によって培われた伝統を大切にしながら、ジェンダー平等に向け、変革を担うチャレンジ精神を備えた女性を育てる取り組みを是非ご覧ください。
執筆者:京都女子大学 学術研究支援部 連携推進課長 小椋 幹子 氏
■京都女子大学のリカレント教育課程
京都女子大学は、2018年(=リカレント教育元年)に女性を対象としたリカレント教育課程を開設しました。当初は、京都府からの要請を受けて連携事業としてスタートしましたが、2019年度からは大学独自の事業として運営しています。初年度は、就業にブランクのある女性(主に専業主婦)をメインターゲットとしたコースのみでしたが、2022年度現在は、文部科学省の委託事業も含め、働く女性をターゲットにしたコースを増設し3コースを運営しました。また、京都府との連携事業として、京都府生涯現役クリエイティブセンターのリカレント研修「女性活躍応援コース」に協力し、DX基礎コースを運営しました(表1)。
2022年度からは、「女性のためのリカレント教育推進協議会」の会長校に就任しており、日本におけるリカレント教育の普及と啓発に努めています。
(表1:2022年度のリカレントコース)
2022年度 リカレント教育課程コース |
概 要 | メインターゲット |
平日通学コース | 簿記・会計、パソコンや、マーケティング等、汎用性のあるビジネス知識を身につける。 | キャリアブランクがあり、再就職を目指す女性 |
文系女子のためのDX入門コース (文科省委託事業) |
データサイエンス、AIに関する知識や統計スキルを身につける。 | 働く女性 |
女性リーダー・管理職育成コース (文科省委託事業) |
アンガーマネジメント、リーダーシップ実践等、サーバントリーダーに必要な知識とマインドを醸成する。 | 管理職もしくはポテンシャル層 |
女性活躍応援コース(DX基礎) (京都府連携事業) |
ハンズオン形式で、エクセルを利用した統計スキルを身につける。 |
働く女性 |
ターゲットが明確に分かれていますが、コロナを機に平日通学コースに、オンデマンドやオンラインの講義を増やしたことで、正社員の方の割合が増加しました。その理由として、コロナ禍でキャリアの不確実性が浮き彫りになり、キャリア開発への関心が高まったことや、スムーズな職場復帰を目指して、育休中後半にリカレントでブラッシュアップの意向があることが、受講生へのインタビューを通してわかりました。ビジネス知識の習得以外に、母子分離の慣らしや復帰後のタイムマネジメントのシミュレーション等、スムーズな職場復帰に向けての生活のリズムづくりに役立てられていました。育休中の受講生は、マーケティングや組織マネジメント、人的資源管理などの基礎理論を学び、ライフキャリアデザインの授業で、キャリアの振り返りと将来へのプランニングを行うことで、積極的なキャリア開発やワークライフバランスへの意欲が高まり、自信を持って職場へ復帰されています。また、配偶者の協力をうまくとりこんでいたのも特徴です。
(写真1:グループワークの様子) (写真2:DXコースの演習)
<受講後の変化>
受講前と比較すると、どのコースの受講生も、キャリアに対して前向きな行動変容が見られます。
例えばDXコースについては、DXリテラシーについての自信の変化をみると、受講前に「自信がなかった」受講生は、71.4%ですが、受講後、65.7%の受講生が「自信がついた(かなり自信がついた+自信がついた)」と回答しており(図1)、実践的な統計スキルやAIやITに関する知識を体得し、自信につながっています。
(図1:DXリテラシーについての自信) n=35
女性リーダー・管理職育成コースについては、リーダーシップ力(ここでの「リーダーシップ力」とは、ある一定の目標達成のために個人やチームに対して行動を促す力のこと)の自信の変化をみると、受講前に「自信がなかった」受講生は、48.1%ですが、受講後、88.9%の受講生が「自信がついた(かなり自信がついた+自信がついた)」と回答しています(図2)。PBL型の講義やワーク、ロールモデルセミナーや講義、受講生も含めた身近で多様な女性管理職のロールモデルとの出会いや相互作用により、実践的なリーダーシップ力を培ったことが示唆されます。
(図2:リーダーシップ力についての自信) n=27
また、コース問わず、受講生との出会いが視座の高まりや、新たな挑戦意欲にもプラスの影響が見られます。受講中に、「所属企業の公募型プロジェクトに応募した」「一般職から総合職への転換に挑戦した」等のキャリアへの前向きな行動変容が見られることも大きな特徴の一つです。
<受講生の声より(一例)>
・社外の方と話すことで、自分自身の視野が広がり、挑戦に対して前向きになった。
・志が同じ受講生と一緒に助け合いながら学ぶことにより自信がつき、自分の成長に繋がった。
・学び合える仲間と出会うことができ、励みになったとともに視野が広がった。
■今後のリカレント教育~日本の社会課題の解決と女性のエンパワーメントを目指して
人口減少社会に伴う労働力不足には、女性人材の活用が必須です。
日本の課題として、ジェンダーギャップ指数の低さが指摘されます(調査対象となった世界156か国のうち、120位)。就業者に占める女性の割合は、44.2%(2018年)であり、諸外国と大差ありませんが、管理的職業従事者に占める女性の割合は14.9%(2018年)であり、諸外国と比較すると「依然として際立って低い水準」と言われています(男女共同参画局HPよりhttps://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r01/zentai/html/honpen/b1_s02_02.html 2023年3月10日閲覧)。
本学の受講生にも、受講前は、ジェンダー規範に縛られた「自信の無さ」から、結婚・出産等のライフイベントによるキャリアを中断する女性や、キャリア開発(「管理職」就任)への躊躇がある女性は少なくありません。しかし、リカレントで学ぶ過程で、マネジメント系の知識やスキル、受講生の相互作用による視座の高まりを得て、ジェンダー規範に起因する縛りを克服し、自信を取り戻し、卒業時の成果報告会ではしっかりとしたキャリアビジョンを描いています。
本学のリカレントは、ビジネス知識・スキルの習得のみでなく、キャリア開発へのマインドセットの効果もあります。一方でプログラム開発に反映するために、担当者による研究の蓄積(2021年度科研費奨励研究「氷河期世代の女性非正規雇用労働者に対する学びの実態調査とリカレント教育について」小椋、2023年度科研費奨励研究「リカレント教育の企業における有用性に関する調査」小椋)も続けています。今後も、女性のあらゆるライフステージに寄り添う「働くための学びの場」として、社会課題を解決する役目も果たしながら、展開していきます。