京都産業大学 サギタリウス館 グローバルコモンズ
■2016年度第1弾です
こんにちは。教まちや事務局です。
2016年度第1回目となる教まちやNews。スタッフは京都産業大学へ取材に行ってまいりました。
2016年3月に竣工式が行われ、4月にオープンした学内最大規模となる新学舎「サギタリウス館」。新聞などでも報道されているのでご存知の方もいらっしゃるかと思います。
今回はサギタリウス館内に設置された、楽しみながら多言語・多文化が学べる空間「グローバルコモンズ」について紹介します。
施設については既に大学のホームページや新聞報道などでたくさん紹介されていますので、今回はスタッフへのインタビューをメインにお送りしたいと思います。
取材にご協力いただいたのは、京都産業大学グローバルコモンズスタッフの尾崎さんと教育支援研究開発センターの物部事務長です。
始めに施設を案内していただき、その後お二人にインタビューしました。
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事務局(以下、事):オープンから1ヶ月ほど経ちましたが、学生さんの反応や利用状況はどうですか?
グローバルコモンズ(以下、グ):毎日300~400人位の学生が足を運んでくれています。人通りが多い場所で、新しい施設ということ、また、ガラス張りで中が見えて開放的で入りやすいようで、多くの学生に利用してもらっています。特別なオープニングイベントは実施しなかったのですが、そういう状況でこれだけの学生が足を運んでくれているのは嬉しいことです。
特に学生にとっては気軽にDVDが鑑賞できるというのも魅力的なようです。DVD鑑賞の目的が外国語学習というよりも娯楽の一部として利用していたとしても、グローバルコモンズを知ってもらうきっかけの一つになってくれれば良いかなと思っています。グローバルコモンズ内ではスタッフが積極的に学生に英語で話しかけますし、館内には英語の掲示が多くありますので、来館した学生がそういった雰囲気を感じてリピーターになってくれれば良いと思っています。
学生たちはDVD鑑賞だったり、お気に入りの場所を見つけることだったり、自分なりの利用方法を見つけて上手に利用してくれていますが、その一方で、グローバルコモンズのコンセプトを、これからどのように周知するかということは課題の一つです。例えば先程お話ししたDVD鑑賞の場合、学生が中国語のDVDを借りる時に「中国語はこう勉強したら良いよ」というようなアドバイスを添えるなど、学生の成長を促すにはこれからどうやっていくか検討中です。
事:見学させていただいた際は日本人学生の姿を多く見かけましたが、留学生などの外国人学生の利用状況はどうでしょうか?
グ:外国人学生の利用者も見られます。グローバルコモンズには、インターンシップ生としてニュージーランドからの交換留学生が勤務していますが、彼女が企画しているアクティビティを毎週月曜日に実施しています。本学に来ている留学生が、自国について30分間プレゼンテーションを行うというものです。例えば、中国人の留学生が英語で中国について紹介をするというような、第2もしくは第3言語である英語を使ってプレゼンテーションをするという、グローバルコモンズのコンセプトにフィットしたイベントです。特に月曜日は多くの留学生が足を運んでくれます。イベント以外でも、自習をしたり、友達と待ち合わせをする留学生の姿をよく見かけます。また、インターン生と話すことを目的に来てくれる留学生もいます。
事:交換留学生がインターン生として勤務していることは留学生の間ではだいぶ認識されているんですね。
グ:そうですね。学内掲示などでも案内はしていますが、それ以外にも留学生同志のネットワーク経由で広まっているようです。
事:予想以上に多くの学生さんが利用されているとのことですが、運営スタッフが感じる改善点などはありますか?
グ:正直なところ非常に順調で、特に困ったケースはまだ発生していません。しいて言うなら、様々な利用者がいますので、パソコンに向かって、黙々とレポートを作成している学生がいる一方、中にはインターネットゲームをしている学生もいることでしょうか。
でも、アクティビティやイベントの数を増やしたり、フロア内でどんどん英語での会話を増やしていくことで、段々とその空気に感化される学生たちが増えてくるのではないかと思っています。せっかく来てくれた学生を強制的に黙らせたり、退場させたりせず、学生自らに気づきを得てもらい、何かしらの学びを求めて来た学生が「居心地が良い」と感じられる空間に自然に変えていきたいと思っています。そういう意図で今後のアクティビティやイベントを作り上げていく予定ですので、そこはスタッフの頑張りどころですね。
雰囲気づくりという点では、館内放送は日本語と英語で行っていますし、ネイティブのインターン生の存在がとても大きいです。彼女が受付カウンターにいるだけでグローバル感が増しているのではないでしょうか。また、ネイティブではない日本人同士が英語で会話をしています。私たちが英語で喋りだすと、学生から「何が起こってるんだ!?」という感じで見られることもあります。学生は良い刺激として受け止めてくれているようです。
■京都産業大学 3つのコモンズ
事:京都産業大学さんには雄飛館のラーニングコモンズ、図書館のlib.コモンズ、そしてこちらサギタリウス館のグローバルコモンズと、3つのコモンズがありますが、それぞれのコモンズの関係性はどのようになっていますか?
グ:よく質問に上がるのがそれぞれのコモンズの違いです。1番の大きな違いは、グローバルコモンズは外国語の主体的学習スペースに特化していることです。では他のコモンズで外国語の勉強ができないのかと言うと、そうではありませんが、図書館はどちらかと言うと、研究論文など、過去10年、20年、もしくは30年以上遡って文献を調べる場合には適しています。グローバルコモンズは、外国語の自学自習に必要な最新の問題集、外国語学習方法を紹介した雑誌、トレンドを知る海外の資料を取り揃えていますので、同じように見えて、配架している資料が違います。配架する趣旨が違うというところで線引きをしています。
グローバルコモンズは、学生が自主的に語学や異文化を学ぶ場所。ラーニングコモンズは、プレゼンテーションや日本語のライティングなどをトレーニングしたり、ディスカッションなどを通じてアクティブラーニングという形で学生同士がチームで学ぶことに特化した場所。そういう区分です。
また、サギタリウス館と雄飛館が1つの通路でつながったことで、今までラーニングコモンズの利用者が少なかった時間帯、特に午前中の利用者が増えたという報告を受けています。良い影響が出ているのではないでしょうか。
「コモンズ」というのは「空間」という意味ですが、このグローバルコモンズではもう1つ「日常」という意味も込めています。英語を母国語としない人たちが集まってコミュニケーションを図ることは、今の多くの学生が日常的に遭遇するようになるまで、そう遠くないと思います。ですからグローバルコモンズを地球規模の日常と考え、外国人学生と日本人学生が英語でコミュニケーションを図り生活することを疑似体験できるような空間を提供していくという意味も込めているんです。ですので、たくさんの学生に来てもらい共通言語としての英語を使いながら、コミュニケーションの取り方を体験してもらい、社会に世界に向かって飛び出していく準備をしてほしいと思っています。そういった意味で単なる自習のための場所ではなく、近い将来の日常というものを視野に入れて「自ら活動していく場所」と考えています。
グ:学生が授業外で主体的に外国語に触れてもらうことを1番に考えているので、実際に授業で利用したいという要望はあるのですが、教室としての利用はお断りしています。
事:自主ゼミでの利用は可能なのでしょうか?
グ:授業以外であればOKです。実際に、ゼミ等の発表練習をしている学生の姿はよく見ますね。
事:授業とは違うということなんですね。
グ:授業とは違いますね。グローバルコモンズに授業と同じような効果を求めるのであれば、教員が運営したほうが成果が上がるとおもいます。ただ、本来は教室でやるべきものをここ、グローバルコモンズに求めるのは違うと思います。ここでは、今から世界に目を向けて、近い未来にグローバルな世界に自分の身を置くんだということを学生たちが体感をしていく、そういうイメージを持って欲しいというから、アクティビティは敷居を低くして誰でも参加できるように設計しています。
ここでは「日常」をどのように学生に理解してもらうかが1番大切だと考えています。例えばTOEICスコアが800点や900点あっても、それを使って生活ができない、日常が過ごせないというのでは意味がありません。グローバルコモンズでは「日常で使える」ということを育成していくことが最大の目標だと思っています。
そういう意味では、大学という教育機関における施設の使い方と現実の使い方のギャップをどうやって埋めていくかというのが大きな課題かもしれません。ここでの運用が学生や教職員からどれほど理解されているかは未知数です。どちらかというと「遊んでるだけじゃないの?」というイメージで見られたり、「もっと教育的なことをするべきじゃないの?」という意見が出たりする可能性があるかもしれません。ただ、それが果たして大学の中にグローバルコモンズを設置したコンセプトというか、それで成果が上がるかどうかは疑問です。ある意味、新しい価値観というか多様性を担保するために、ある程度のところまでは目を瞑るというのは止むを得ないと思っています。先程も言ったとおり、いつの間にかこの空間ではインターネットゲームがしづらいという空気を、利用している学生が自然と醸成していく一方で、奥のスペースでは1人でパソコンを使いながら、映画を見て笑っている、そういう世界があっても良いのでは?と思います。ここは図書館ではないので、静粛にしなさいとは言いません。グローバルコモンズでは出来るだけ排除をしない、つまり多様性を認めながらルールを作り上げていくということをやっていきたいと思っています。
事:とはいえ、大学内の教育施設ですので、大学が求める教育効果をどうやって測るのかは、どうお考えですか?
グ:ここ(グローバルコモンズ)に、授業を通じて得られる教育効果を求めるのはやや短絡的だと考えています。ここはあくまで課外活動、つまり学生が主体的に活動を行う場所なので、いわゆる授業で行うような教育効果を求めること自体が間違いだと思います。授業で培われないような教育効果や、予習復習を含めて授業に臨むために主体的に何かするということが大切だと思いますし、そういう空間でなければいけないと思っています。グローバルコモンズで行うアクティビティのレベルが初級のものばかりで、外国語学部との授業連携を前提とすると、「物足りない」という意見は多分出るであろうことは容易に想像ができます。しかし私たちは、物足りないと思った学生が、自らが満足できる成果を得るための活動のきっかけを提供したいと考えています。
■グローバルコモンズ 今後の展開について
事:今後も利用者に対してグローバルコモンズの広報活動を進めていかれると思いますが、パンフレットや冊子のようなものは作る予定はありますか?
グ:構想段階ではありますが、このグローバルコモンズは教育支援研究開発センターが管理をしています。雄飛館ラーニングコモンズとF工房も本センターが運営していますので、ゆくゆくはこの3つの機能を1冊にまとめた紹介冊子を作りたいと考えています。
事:ワークショップなどのイベントも今後たくさん企画されると思いますが、いかがでしょうか?
グ:ワークショップの企画をする際、これは授業外で学生が言語に触れて海外で生活していくシチュエーションを想定しながら作るんだということを、常に自分に言い聞かせながら作っています。やはり先程言ったように授業で得られる教育的効果を求める場所ではないということを非常に意識しています。先生方からは好意的な意見やそうでない意見も頂きます。だからこそ、先生や職員や学生に、私たちがどういう思いで展開していくのか、グローバルコモンズとは何をするところかということを、伝えていきたいと思います。そのためには、常に自分自身を原点に戻しながらやらないと、理解していただきにくい部分があります。“大学内の教育施設でありながら、授業と同じ様な教育的効果を求めない場所”という「新しい文化」、「新しい考え方」というコンセプトのある空間ですから、まず私たち自身がそのコンセプトを意識しています。これは、課題といいますか、ぶれないでいるための自分自身への注意点とも言えますね。
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尾崎さん、物部事務長、ありがとうございました。
施設内の見学やインタビューをさせていただき、運営スタッフの新しいことに挑戦するご苦労はもちろん、それ以上に楽しみながら日々お仕事をされている様子をうかがうことができました。
また、学生さんたちものびのびと自由に施設を利用する様子をみていて、当事務局スタッフの学生時代にこんな施設があったらもう少し語学が上達したのかなぁ、とうらやましく感じてしまいました。
今後も京都産業大学グローバルコモンズに注目していきたいと思います。
以上、教まちやNews京都産業大学編をお送りしました。