「加盟校レポート」12 龍谷大学 深草町家キャンパス:龍谷大学 林久夫先生
■教まちや、京町家を訪ねる
こんにちは。教まちや事務局です。
大学コンソーシアム京都でFD企画研究委員の先生方にご紹介いただく「加盟校レポート」シリーズ。第12弾となりました。
昨年度に引き続き、龍谷大学は理工学部 教授 林久夫先生にご担当いただきました。昨年度は和顔館のラーニングコモンズ、今回は「深草町家キャンパス」をご紹介いただきます。
龍谷大学深草町家キャンパスは深草キャンパスから徒歩約10分の場所にあります。深草地域を南北に走る本町通は、今でも古くからの伝統的な京町家が多く残されている地域です。深草町家キャンパスも京町家の多くの特徴を備えた外観で、この地域の歴史的な景観にすっかりと馴染んでおり、表札が無ければ大学の施設とは思えない佇まいです。
取材にご協力いただいたのは、深草町家キャンパスの管理運営を行っている「NPO法人 深草・龍谷町家コミュニティ」※スタッフの佐野さんと、龍谷大学エクステンションセンター(REC)の世雄さんです。
※NPO法人深草・龍谷町家コミュニティ・・・龍谷大学と伏見・深草地区の地域の方々で設立されたNPO法人。地域と大学とが協力して地域の課題に主体的にかかわり、地域社会と大学とのパイプ役を担いながら、様々な活動と人材を結ぶ事業を展開しています
■開設4年目を迎える深草町家キャンパス
林先生及び事務局(以下、林):まず初めに、この町家キャンパスの開設の経緯・目的などについて、簡単にご紹介ください。
龍谷大学深草町家キャンパススタッフ(以下、龍):この建物は、もともとこの土地で空き家だった築150年の町家でした。所有者が、個人での維持管理は難しいということで、京都市景観・まちづくりセンター、京都市伏見区深草支所などに相談し、京都府不動産コンサルティング協会も交えて活用方法を検討していたところに、龍谷大学も加わりました。その結果、所有者が改修をし、龍谷大学が借り受けることになりました。
その後、景観重要建造物の指定と、「京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」による建築基準法の適用除外規定を活用した第一号として保存建築物に登録され、2013年4月に龍谷大学深草町家キャンパスとして開設されました。龍谷大学が、町家の利活用を通じて、地域社会と連携を図りながら、教育・研究上の成果や学内資源を地域に還元し、地域に開かれた大学として、地域社会と共に発展することを目的としたキャンパスです。
林:キャンパス外にキャンパスを置くというのは他の大学でもありますが、こちらの町家キャンパスの特色、他大学と比べてここが違うという点はどこでしょうか。
龍:特徴的なのは、運営の方法です。龍谷大学(REC)が直接管理を行わず、NPO法人に運用管理を業務委託している点です。そのため、運用や事業展開に一定の自由度が生まれるというメリットがあり、利用者が利用しやすく、取り組み自体も形骸化しないような状況を生み出すことができています。もちろん事業自体は龍谷大学(REC)の理念である地域貢献、社会連携という視点で展開を考えてくれていますので、運用はスムーズに行われています。
林:こちらの町家キャンパスへは深草キャンパスから10分程歩かなければいけないので、少し不便かなとも思うのですが・・・利用状況はどうでしょうか。
龍:稼働率は高いです。正課授業での利用はもちろん、部活動や、サークルなどの課外活動での利用もあります。ゼミでの利用が多いですが、ゼミから派生した有志によるプロジェクト活動が最近増加傾向にあります。例えば、産学連携による日本酒普及プロジェクトや、NPO法人と連携した地域の中学生のための学習支援などのプロジェクトでの利用等、定期的な活動も増えています。
林:この距離感や町家という建物ならではのメリットがあるということですね。
龍:例えば、ゼミ室の中でディスカッションをするよりも、開放的な雰囲気の方が意見が出やすくなるという効果があるようです。また、フィールドワーク系の授業や地域交流型の活動をしている団体などには、町家キャンパスの方が適している環境になることもあります。地域の方々、子どもたちは大学キャンパス内の建物には入りづらいという印象をお持ちの方もいらっしゃいますので、町家キャンパスは「家」のように入りやすいようです。
また、畳の部屋なので、競技かるたや、落語研究会、詩吟、能楽のような部活動がしやすいようで、よく利用されています。
■地域社会と共に発展する「深草町家キャンパス」
林:運用管理をされているNPO法人スタッフとして佐野さんが意識している点があれば教えてください。
龍:基本的に、利用者の主体性を尊重しています。使用にあたっての遵守事項を守らない場合には注意をすることはありますが、それ以外のことに口出しはしません。
助言を求められたり、使用時に困っている様子があればアドバイスを行うことはありますが、あくまで利用者の主体的な活動を妨げない範囲で行っています。
林:苦労されている点はありますか?
龍:現在、スタッフは私を含めた2名と事務局長(教員)の体制です。町家キャンパスの管理事業のほかにも、地域連携事業や学生活性化事業として、学生企画委員会「京まちや七彩(なないろ)コミュニティ」による地域連携事業の企画・運営の支援や、情報発信なども行っています。全体規模の事業構想に対するマンパワー不足は感じています。ただ、これらの問題も徐々に解消される方向に向かっているので、来年度以降は更なる事業発展のフェーズに入っていくのではないかと考えています。
林:学生による企画委員会があるんですね。
龍:学生有志団体「京まちや七彩コミュニティ」には現在28名が所属しています。彼らが企画した「まちやこうえん計画」というプロジェクトは、大学コンソーシアム京都と京都市が実施している「学まちコラボ事業」※に採択される等、社会的にも高く評価されています。
学生たちの手によって、この町家キャンパスの裏庭に「まちやこうえん」というコミュニティファームを作りました。
昨年度は学生や地域の子供たちが裏庭の畑で収穫した農作物を使って地域の方にふるまうイベントがメインでしたが、今年度は農作物を育てるところから地域住民の方々に参加してもらっています。栽培する農作物に関しても、今は子どもたちと何を育てたいか話し合って決めています。
しかし実は、このプロジェクトのメインターゲットは子どものように見えて、子育て世代の親御さんなんです。子どもたちが土に触れ、野菜が育つプロセスを知ってもらうことだけが目的ではなく、ママ友コミュニティを構築するという目的があります。今、20代~40代の方々はあまり既存の自治会組織等の活動に積極的に参加されない方もおられると思いますが、「まちやこうえん計画」事業を通じて地域の親子交流を経験してもらい、子どもたちの過ごしやすい地域社会について考えていただく機会にしています。
※学まちコラボ事業・・・魅力ある地域づくりや地域の課題解決に向けて、大学・学生が地域と協働で取り組む事業を募集し、優れた取り組みに対して京都市と(公財)大学コンソーシアム京都が助成支援を行っています。
林:来年度は事業展開のフェーズに、ということでしたが、最後に、将来こんな風になればいいなといった夢があればお聞かせください。
龍:具体化は今後の課題ですが、単に町家の貸館業務やイベントを実施するだけではなく、教育機関としての大学が地域に求められていること、役割とは何なのかを常に考えていきたいと思っています。学生たちの「京まちや七彩コミュニティ」も同様です。単なるイベント屋ではなく、課外PBLのような教学的な視点を持つと同時に、SDの要素も兼ね備えた活動を目指して取り組んでいきたいと思います。
学生にも楽しんでもらい、自分自身も楽しみながらコーディネートしていきたいと考えています。
■最後に
インタビューの中で、「地域開放型キャンパスとしては、今はやりのガラス張りで中が見える建物の方がおしゃれで、心理的には入りやすいと好まれるようです。築150年を越える京町家は、厳格な雰囲気があり、外から中の様子を伺うことができないため、入りづらく、敷居の高さを感じてしまうかもしれません。しかし、京都にある大学として、築150年を超える町家を再利用することの意味、そして100年後までこの町家を利活用することで町家の社会的な価値を維持できるのではないか。また、大学としては、より直接的に社会的役割も果たせる空間になるのではないでしょうか」と言われたのがとても印象的でした。
これからも続いていく、大学と地域とのコラボレーション。まずは、今年の「まちやこうえん」の豊作を楽しみにしています。
取材にご対応いただいた「NPO法人 深草・龍谷町家コミュニティ」スタッフの佐野さん、龍谷大学エクステンションセンター(REC)の世雄さん、ありがとうございました。
以上、「加盟校レポート」龍谷大学編をお送りしました。